えつよの本棚

読んだ本から感じたことを自由に綴ります。

「トーマの心臓」萩尾望都 ☆すべてが美しい☆

トーマの心臓萩尾望都

 トーマの心臓 (小学館文庫)

今回は漫画。萩尾望都先生の大名作「トーマの心臓」です。

どうしよう、好き過ぎて感想が上手く言語化できないかもしれません(笑)

 

…話はいきなりそれますが。私は蟹座なのですが、↑好きなものに対するこういう反応、しいたけ占いのしいたけさんが言ってたこれですね。まさに。

f:id:etsuyo11:20180531221024p:image
https://ameblo.jp/shiitake-uranai-desuyo/entry-12347352267.html

はい。しいたけさんの本も、いつか読んで感想を書いてみたいと思います。

 

トーマの心臓」に戻ります。

これを言ってはこの作品が存在する意味がなくなってしまう気もするのですが、

「トーマ、なにも死ななくても…!」

と思ってしまうのです。

私なら、きっとそこまでしない。

でも、この作品が好き過ぎるってことは、私の中にトーマのような存在がいるんですよね、きっと。好き過ぎるものと嫌い過ぎるものは、たいてい、自分の中にあるものだから気になる。

「自分の肉体の死をもって、愛を表現する」自分が…。

 

この作品は、トーマの死から始まります。すべてはそこから始まる。

そして、トーマの死の場面の直後に、トーマが書いた詩が展開されます。

この詩が、私にはとても美しく感じられて、初めて読んだ時、まだ始まったばかりなのに「この作品が好きだ!」と思ったのです。

 

それはこんな詩です。

-----------

ぼくはほぼ半年の間ずっと考え続けていた

僕の生と死と  それから一人の友人について


ぼくは成熟しただけの子どもだ  ということはじゅうぶんわかっているし

だから  この少年の時としての愛が

性もなく  正体もわからないなにか透明なものに向かって

投げだされるのだということも知っている


これは単純なカケなぞじゃない

それから  ぼくが彼を愛したことが問題なのじゃない

彼がぼくを愛さなければならないのだ

どうしても


今  彼は死んでいるも同然だ

そして彼を生かすために

ぼくはぼくのからだが打ちくずれるのなんか  なんとも思わない


人は二度死ぬという  まず自己の死  そしてのち  友人に忘れ去られることの死


それなら永遠に

ぼくには二度目の死はないのだ(彼は死んでもぼくを忘れまい)

そうして

ぼくはずっと生きている

彼の目の上に

-----------

 

なんだか、ちょっと怖いけど美しいと感じてしまうんですよね。

(彼は死んでもぼくを忘れまい)

なんて怖すぎるし(笑)

 

でもなんだか詩のリズムが心地よくて、トーマの執念みたいなものも、そのリズムに乗ると軽やかにすっと受け入れられる感じがします。

 

この作品の舞台は、ドイツのちょっと田舎にある歴史ある全寮制の男子学校、シュロターベッツ。

トーマが愛した「彼」は、同じ学校の一学年上のユーリです。

優等生で委員長で人望も厚いユーリですが、実は自分を偽りながら生きている。

トーマはそれに気づいていて、ユーリの心を開こうとするけれどもユーリは頑なにそれを拒む。

 

トーマとユーリの関係性を軸に、他の人物の物語も絡んでゆくので、ちょっと群像劇のような雰囲気もあります。


ユーリはトーマ含めたくさんの友人に愛されていて、ユーリらしくいきいきと生きてほしいと願われている。ユーリはそれに気づくことができるのか、自分を取り戻すことができるのか…がこの作品の肝ですね…気になる人は、是非読んでみてください。


「愛」という言葉が、とても頻繁に出てきます。

「愛している」というセリフが。

それは愛ではなく執着だよね…と感じる場面も多々あるのですが、それも含めて、すべてが美しい作品だなあと思います。

思春期の、過剰なまでに溢れる感情と、自分の価値について悩む日々。

その特別な時間が、とても美しく描かれている作品だと思います。